2008年6月12日の最高裁判決を受けて

 


    • 6月12日、NHK番組改ざん裁判の最高裁判決が言い渡されました。最高裁はバウネットの附帯上告を棄却し、NHKの上告を棄却することにより「表現の自由」を正面から論じる憲法論争から逃げ、詳細な事実認定に基づきNHKらの不法行為を認めた高裁判決を一般論で覆すという、暴挙以外の何物でもない不当な判決を言い渡しました。これが「憲法の番人」のすることでしょうか!!

      私たちは、高裁で明らかにされた番組への政治介入に目を塞ぎ、「特段の事情」を「格段の負担」で骨抜きにし、「表現の自由」「言論の自由」への信頼をないがしろにしたこの判決に、断固、抗議します!!

      高裁判決は取材プロセスを詳細に検討し、「特段の事情がある場合」と制限をつけたうえでこのケースは「取材対象者の期待・信頼が法的保護の対象となる」と判断し、NHKらの不法行為責任を認めました。高裁がそのような判断をしたのは、NHKの改変は、「本件番組が予算編成等に影響を与えることがないようにしたいとの思惑から、説明のために松尾と野島が国会議員等との接触を図り、その際、相手方から番組作りは公正・中立であるようにとの発言がなされた」ことを受けて、「松尾と野島が相手方の発言を必要以上に重く受け止め、その意図を忖度してできるだけ当たり障りのないような番組にすることを考えて試写に臨み、その結果、そのような形にすべく本件番組について直接指示、修正を繰り返して改編が行われた」と認定したことが重要なポイントでした。すなわち、番組への政治介入が異常な改変の本質であり、 NHKの行為を「編集権を放棄したものに等しい」「憲法で保障された編集の権限を濫用し、又は逸脱したものといわざるを得ず、放送事業者に保障された放送番組編集の自由の範囲内のものであると主張することは到底できない」と断じたのです。

      しかし、最高裁は、その最大の論点を無視したばかりか、裁判長の横尾和子氏は、取材対象者の期待・信頼を認めれば「取材活動の委縮を招くことは避けられず、ひいては報道の自由の制約にもつながり」、「(取材対象者の)放送番組編集への介入を許容する恐れがある」と、とんでもない意見を展開しました。介入の張本人である安倍晋三議員は、「最高裁判決においても朝日新聞の報道がねつ造であったことを再度確認することができました」と、意気揚々と厚顔無恥なコメントを出しました。

      報道の自由を制約・侵害したのは誰なのか!放送番組編集に介入したのは誰なのか!本末転倒のこの判決は、政治介入を許容し、「編集の自由」と「放送の自律」の侵害を容認したのです。何より、判決は、女性国際戦犯法廷に正義の実現を求めて参加した「慰安婦」被害女性たちの尊厳を冒涜したのです!!

      判決史上に重大な汚点を残し、司法への信頼を打ち砕いたこのような判決は、国際社会に恥じるものです。7年の裁判の闘いの中で明らかにされた数々の真実は、末永く人々の記憶に深く刻まれるでしょう。私たちは、自らに降りかかる不利益を怖れず勇気をもって事実を証言した長井さんや永田さん、坂上さんらジャーナリストたちの勇気に、心から敬意を表したいと思います。

      最後に、長い裁判闘争に熱い支援を送り続けてくださった皆様に心から感謝と連帯の意を表明いたします。闘いは終わったわけではありません。この怒りを力に、これからも共に頑張りましょう。

      2008年6月 27日
      「戦争と女性への暴力」日本ネットワーク(VAWW-NETジャパン)
      共同代表 西野瑠美子・東海林路得子
      運営委員一同