「女性国際戦犯法廷」判決

 

  • (2001年12月4日判決の後 2002年1月31日書記局より最終版発行)
  • 2001年12月4日に閉廷した「女性国際戦犯法廷」の判決全文です。1094パラグラフ、英語原文で265ページにも渡るこの判決は、「慰安婦」問題に関して歴史に残る最も重要な文書です。
  • 「女性国際戦犯法廷」認定の概要(2000年12月12日発表)
  • 2000年12月12日東京での「女性国際戦犯法廷」最終日に発表された、「女性国際戦犯法廷」認定の概要です。

     
  • ハーグ判決概要(2001年12月4日発表)
  • 2001年12月4日にハーグでの最終判決において裁判官により口頭で読み上げられた「女性国際戦犯法廷」の判決概要です。判決の大要をコンパクトに参照することが出来ます。

    現在PDF書類での提供を準備中です。
  • 判決文の内容の紹介
  • 「法廷」は、国家(旧連合国・日本)が果たさなかった日本軍性奴隷制を裁く義務を果たすために、グローバル市民社会が開いた民衆法廷で、東京裁判の継続であると、その特色や意義を述べています。

    日本政府の性奴隷制についての言い分に反論しています。そのうえで、被害者証言や証拠に基づく事実認定を行い、「慰安婦」制度の実態を各国別に説明したあと、それがいかに女性に対して残酷な性暴力であったかを徴集から敗戦時の遺棄まで具体的かつ詳細に述べています。

    ついで、どのような法律を適用するかに移り、この「法廷」が民衆法廷であるがゆえの適正法手続きの不十分さについての見解を述べたうえで、レイプと性奴隷制がハーグ条約や奴隷条約など各種条約違反の人道への罪であることを論じています。

    そのうえで、個人の刑事責任について、部下の違法行為について知っていたか知るべき立場にあったのに必要な措置をとらなかった指揮命令責任の原則を論じ、それに基づいて、レイプと性奴隷制に対して、昭和天皇と8人に有罪、マパニケ村のレイプに対して、昭和天皇と山下奉文に有罪(ただし天皇は実行責任は無罪の判定を下しました。

    ついで、国家責任については、戦争当時、日本軍性奴隷制が奴隷条約、ハーグ条約、ILO強制労働条約、人身売買禁止条約などの諸条約に対する違反行為であり、戦後はその違反行為に対して賠償や訴追の義務があるのにこれまで日本政府がその義務を果たしてこなかった戦後責任も含めて、賠償責任を認定しました。その賠償の内容も、事実証人と真相公開、遺骨回収と埋葬、被害者の名誉回復公式宣言、謝罪と責任認定、違反者への法的行政的制裁、犠牲者の追悼、記憶の保存、公式かつ完全な謝罪、法的救済、原状回復、損害賠償、リハビリテーション、ジェンダートレイニングとエンパワメントなど、きわめて念入りで具体的です。

    さらに、17項目の勧告がついています。日本政府へ12項目(賠償や謝罪のほか、資料の永久保存と一般公開、記念館・博物館・図書館の設立、教科書への記述、性奴隷制とジェンダー関係についての教育、希望すれば祖国への帰還、責任者の処罰などを含む)、旧連合国へ3項目(東京裁判での「慰安所」制度と天皇不起訴の理由と記録の公開、55年間の慰安婦犯罪捜査と訴追しなかった事実を認めること)国連と加盟国へ2項目(日本政府に被害者への賠償をさせるようあらゆる方策、日本政府の不法行為について国際司法裁判所に助言を求める)

    最後に、結論として、女性法廷の道義的影響力で日本政府が責任を全うするように求め、被害者の勇気は女性に対する暴力不処罰を断ち切る基礎を気づいたと、称賛しています。

    最後のパラグラフ1094では、判決は被害女性たちへの深い思いを表現しています。

    • 「この判決を通じて、本法廷は、日本軍性奴隷制の被害者となったすべての女性たちを称えたい。
      判事団は、苦労を乗り越えて生き延び、打ち砕かれた人生を建て直し、恐れと恥をしのんで世界中に自らの体験を語り、私たちの前で証言したサバイバーたちの強じんな精神と威厳を高く評価したい。
      正義を求めて闘うために名乗り出た女性たちの多くは、称えられることのない英雄として亡くなった。
      歴史のページに名前が刻まれてきたのは、せいぜい犯罪を犯した、あるいはその犯罪を訴追した男性たちであり、被害を受けた女性たちではなかった。
      しかし、この判決は、証言台で自らの体験を語り、それによって少なくとも四日間にわたり、不法を断頭台に送り、真実を玉座に据えたサバイバーたちの名前を、銘記するものである。

    [無断転載禁止]
    この判決全文は
    VAWW-NETジャパン編集・緑風出版社刊
    『日本軍制奴隷制を裁く 2000年女性国際戦犯法廷の記録』第6巻
    「女性国際戦犯法廷の全記録2」に完全収録されています。

  • 判決文の構成
  • 全体の構成は八部で、成り立っています。

     まず、第一部「序文と裁判の背景」では、この「法廷」が民衆法廷であることの意味、起訴状や証拠など裁判のやり方の説明、東京裁判の継続であること、日本政府の言い分の紹介などです。

     第二部「事実認定」は、判決の中で最も多くのページをさいて、日本のアジア太平洋侵略の歴史を国別に辿り、ついで「慰安婦」制度を国別に記述し、性奴隷制の特徴をまとめ、東京裁判で取り上げられなかったマパニケでの集団強かん事件についてふれています。被害女性の証言を丹念にひろって、性奴隷制がどれほどすさまじい暴力であったか、「慰安婦」制度の全体像に迫っています。

     第三部「適用法」は、こうした事実に基づく当時の法を適用して、性奴隷制と強かんを人道に対する罪とみなすのはなぜか、ニュルンベルグ・東京裁判の記録も引用し、諸条約も分析して結論づけています。

     第四部は「個人の刑事責任」で、「知っていたか、知るべきであったのに、必要な手段をとらなかった」上官責任と、計画、煽動、命令、幇助、教唆などの個人責任について論じています。

     第五部「法的認定と判決」は、人道に対する罪としての性奴隷制と強かんで起訴された昭和天皇および九人の軍部・政府指導者は、証拠に基づいて個人責任と上官責任で有罪(ただし、天皇は上官責任だけ有罪)という判決を出しています。

     第六部「国家責任」では、日本国家は戦時中どの条約違反の不法行為をしたのか、戦後どのような対応をしたのかを詳しく述べて、被害者へ賠償する国家責任を認定しました。

     第七部「賠償」は、日本政府が果たすべき賠償責任の内容を述べ、日本政府旧連合国、国際社会への十七項目の勧告を付しています。

     第八部「結論」は、「女性国際戦犯法廷とこの判決の道義的力で、世界の国家と人々が、日本政府に残虐行為を償い、不正を正し、未来の世代を女性の平等と尊厳を尊重して前進させるように、法的責任をとらせることを願う」と呼びかけています。