法廷憲章

 

    • (2000年7月31日マニラ会議で採択、同年10月26-27日ハーグ会議で修正)
      • 第15条 協力
      • 第14条 判決
      • 第13条 被害者と証人の参加と保護
      • 第12条 審理
      • 第11条 検察官:調査と起訴状
      • 第10条 書記局
      • 第9条 訴訟手続きと証拠に関する規則
      • 第8条 裁判官と検察官の資格と選任
      • 第7条 「法廷」の構成
      • 第6条 時効の不適用
      • 第5条 公的資格と上官の命令
      • 第4条 国家責任
      • 第3条 個人の刑事責任
      • 第2条 「法廷」の管轄権
      • 第1条 女性国際戦犯法廷の設置
      • 前文
    • 第15条 協力
    • 1.「法廷」は、一人一人の個人、NGO、政府、政府間機関、国連機関やその他の国際団体に対し、この憲章第2条に述べる犯罪に責任のある人々や国家の捜査と訴追に全面的に協力するよう、要請することができます。

      2.「法廷」は、一人一人の個人、NGO、政府、政府間機関、国連機関やその他の国際団体に対し、「法廷」の判決について協力を求められた場合にはそれを尊重するよう、要請することができます。協力要請には以下に関することを含むものとしますが、それだけに限定されません。

      (a)人物とその所在の特定、その事件の場所の特定

      (b)証言を得ること、証拠の提出、

      (c)被告人、被害者、証人、専門家としての「法廷」への任意の出廷

      (d)場所や現場の検証

      (e)関連のある情報、記録、公式または非公式の文書の提供と、戦時下の公文書の全面開示

      (f)被害者や証人の保護と証拠の保存、

      (g)固有の国際的責務にかなうよう、これらの犯罪に責任を持つ者について捜査と訴追 に協力し、または自ら実施すること

      (h)固有の国際的責務にかなうよう、謝罪、損害賠償とリハビリテーションを含む補償 の規定をもうけること

      (i)「法廷」の目的を促進することを望んでなされるその他の助力。

    • 第14条 判決
    • 1. 判決は、公開の場で言い渡され、「法廷」の裁判官の多数決によって下されます。また裁判官は、判決について別途に、同意意見または反対意見を付けることができます。

      2. 判決は、「法廷」に提出された証拠に基づいて、被告人がその犯罪について有罪と認められたか有罪とは認められなかったか、あるいはそのような判断を下すためには証拠が不充分であるかどうかを明確に述べ、その判決の理由を述べます。

      3. 判決では責任があるとされた個人または国家に対して被害者への救済処置を要請することができます。救済処置には、謝罪、原状回復、損害賠償、リハビリテーションなどが含まれます。

      4. 判決は生存者、被告人本人または代理人、日本政府、関係各国政府、国連人権高等弁務官などをはじめとする国際機関に送付し、さらに歴史的記録として広く世界に公表します。

    • 第13条 被害者と証人の参加と保護
    • 「法廷」は、取り扱う犯罪の本質を考慮し、またトラウマに配慮して、性暴力の被害者や証人、また他のいかなる人についても、証言をすることで危険にさらされる人々について、その安全、身体的心理的な福利、尊厳やプライバシーを保護するよう、必要な手段を取ります。保護措置としては、必要に応じて視聴覚機材による審理やその他の被害者の身元を匿す措置を含みますが、それだけに限定されません。

    • 第12条 審理
    • 1. 「法廷」は審理を開始するにあたって検察官からの起訴状を読みます。「法廷」は公正で迅速な審理を保障します。

      2. 審理は公開で行います。

      3. 「法廷」の使用言語は英語とします。必要に応じて他の言語に翻訳・通訳されます。

    • 第11条 検察官:調査と起訴状
    • 1. 検察官はこの憲章の第2条に述べる犯罪の捜査と訴追に責任を持ちます。その際ジェンダーや文化の諸問題、また被害者が直面するトラウマなどに配慮します。

      2.検察官は個人、生存者、NGOその他の情報源から得られる情報に基づいて調査を行い、真実を確定するために、容疑者、被害者、証人を尋問し、証拠を集め、現地捜査を行う権限を持ちます。

      3. 検察官は捜査の結果、訴追に十分な根拠があると判断した場合に、「法廷」に起訴状を提出します。

    • 第10条 書記局
    • 国際実行委員会は、「法廷」に書記局を設置します。書記局は、「法廷」の事務と運営に責任を持ちます。

    • 第9条 訴訟手続きと証拠に関する規則
    • 「法廷」の裁判官は、審理の手続きと証拠に関する規則、被害者や証人の保護その他の、裁判官が必要とみなした「法廷」についての適切な事項を決定します。以下のものは証拠と認められます。

      (a)書証:公文書、宣誓供述書・調書、署名のある陳述書、日記、手紙やメモなどの文書資料、専門家鑑定書、写真やその他の映像視覚資料、

      (b)人証:生存者や証人の文書または口頭の証言、専門家による鑑定証言、

      (c)物証:関連するその他の物証。

    • 第8条 裁判官と検察官の資格と選任
    • 裁判官、検察官は国際実行委員会が、人権の分野で国際的に信頼のある著名人の中から、以下を考慮して任命します。

      (a)性の配分

      (b)地域配分

      (c)女性の人権の提唱、擁護、推進に対する貢献

      (d)国際人道法、国際人権法、国際刑事法についての専門的知識と経験

      (e)ジェンダー犯罪や性暴力犯罪を扱った経験

    • 第7条 「法廷」の構成
    • 「法廷」は次の構成となります。

      (a)裁判官

      (b)検察官

      (c)書記局

    • 第6条 時効の不適用
    • 「法廷」が裁く犯罪は、時効が適用されません。

    • 第5条 公的資格と上官の命令
    • 1. 被告人の公的地位が、天皇であろうと、国家元首、政府の長、軍隊の司令官、責任ある官吏であろうと、その立場によって、その人の刑事責任は免除されず、処罰も軽減されません。

      2.犯罪が上官または政府の命令に従って行われたものであっても、その事実だけでは、 それを犯した個人は刑事責任を免れません。

    • 第4条 国家責任
    • 国家責任は以下から生じます。

      (a) 第2条の犯罪の実行または行為が、その国家の軍隊、政府の官吏、および公的立場で行動する者によって行われた場合、

      (b) 国家による次のような行為または不作為

      i) 第2条の犯罪に関して、事実を隠したり、歪めたり、または他のいかなる形態であっても真実を発見し公表する責任を果たすことを怠ったり、その責任を果たさなかった場合、

      ii) これらの犯罪に責任ある者を訴追し処罰しなかった場合、

      iii) 被害者に賠償を支払わなかった場合、

      iv) 個々の人間の本来の姿、福利や尊厳を守るための措置をとらなかった場合、

      v) ジェンダー、年齢、人種、肌の色、国民的、民族的または社会的出身、信条、健康 状態、性的傾向、政治その他に関する意見、経済状態、生まれ、その他の何らかの地位に基づいて差別的取り扱いを行った場合、 あるいは

      vi) 第2条の犯罪の再発防止に必要な措置をとらなかった場合。

    • 第3条 個人の刑事責任
    • 1.この憲章の第2条に定めた犯罪を計画し、扇動し、命令した者、また他の如何なる形でも計画、準備や実行を幇助・扇動した者は、その犯罪について個人として責任を問われます。第2条に定めた犯罪の証拠を隠した者は個人として責任を問われます。

      2.この憲章第2条の犯罪を部下が犯したという事実は、その上司または上官が、部下がそのような行為を行おうとしていることを知っていたか、知るべき事情があったのにその防止や抑止のために必要で適切な手段を講じなかった場合、または、捜査と訴追のためしかるべき当局に事件を報告しなかった場合は、それらの上司や上官が刑事責任を免れる理由にはなりません。

    • 第2条 「法廷」の管轄権
    • 1.「法廷」は、女性に対して行われた犯罪を、戦争犯罪、人道に対する罪、その他の国際法に基づく罪として裁きます。「法廷」の管轄権は、第二次世界大戦前・中に日本により植民地とされ、支配され、あるいは軍事占領されたあらゆる国と地域、ならびに同様の被害を日本から受けた他のあらゆる国に及びます。 「法廷」が裁く犯罪は、強かん、性奴隷制その他のあらゆる形態の性暴力、奴隷化、拷問、強制移送、迫害、殺人、殲滅を含みますが、それらに限定されません。

      2.「法廷」は、上記の犯罪に関して国際法に違反する国家の作為または不作為、また第4条に定める作為または不作為についても裁きます。

      3.「法廷」はまた、第4条に定めるとおり国際法に基づく国家責任に関わる請求についても裁きます。

      4.「法廷」の管轄権は、今日(こんにち)の時点にまで及ぶものとします。

    • 第1条 女性国際戦犯法廷の設置
    • ここに「女性国際戦犯法廷」(以下「法廷」)が設立されます。「法廷」はこの憲章の規定に従って、個人と国家を裁く権限を持ちます。「法廷」は、国際実行委員会によって決定される日時、場所で、公開の審理を行います。

    • 前文
    • 第二次世界大戦前・中に日本軍が、植民地支配し、軍事占領したアジア諸国で行った性奴隷制は、今世紀の戦時性暴力の最もすさまじい形態の一つだが、その被害女性たちが正義を得られないまま20世紀が過ぎ去ろうとしているのを目の当たりにし、

      女性に対する暴力、特に武力紛争下の暴力が、今日世界各地でいまだに絶えないことを目の当たりにし、

      女性に対する暴力は、1993年世界人権会議で採択されたウィーン宣言と1995年第4回世界女性会議で採択された北京行動綱領によって一層の国際的関心を引いており、その綱領は、強かん、性奴隷制などの武力紛争下の女性に対する暴力は戦争犯罪であり、真相究明、被害者に対する補償、加害者の処罰が必要であると明記していることに注目し、

      90年代初めに、国連が設立した旧ユーゴおよびルワンダ国際戦犯法廷が女性に対する暴力に責任のある者を訴追していること、また国際刑事裁判所は設置規程が発効した後に行われた戦時および武力紛争下の女性に対する暴力を裁くことになっていることに留意し、

      日本軍性奴隷制が女性に対する暴力の中でもとりわけ重大で深刻なものであり、当時の国際法の原則に違反し、人間の良心に深く衝撃を与えるものであった点に鑑み、第二次世界大戦終結後にアジア全域で連合国が開いた軍事法廷は日本軍性奴隷制やその他の女性に対する性暴力を戦争犯罪としてほとんど訴追せず、その後の数十年間も、現行の国内および国際的司法制度は加害者を裁かなかったことに注目し、

      日本軍性奴隷制の被害女性たちが、こうした侵害行為のために、また個人に対する損害賠償その他の形の補償や加害者訴追など正義が行われないことのために、今も身体的、精神的に苦しみ続けていることを認識し、

      この奴隷制の生存者たちが長く苦しい沈黙のあと、1990年代になって、裁きが行われることと、長い間奪われていた基本的人権を回復することを要求してきたことを意識し、犯罪が行われてから半世紀たっても、生存者たちは加害者から罪を認める言葉も受けられず、犯罪の責任者たちは真の謝罪も行わず補償を提供することもなく、その一方で、被害女性たちは何の補償救済措置もないままに次々に亡くなっていくことを憂慮し、

      性奴隷制を含む戦時性暴力の被害女性や生存者に正義を回復することは、地球市民社会を構成する一人一人の道義的責任であり、国際的な女性運動にとって共通の課題であることを心に留め、

      すべての被害女性に正義、人権、尊厳を回復し、戦時および武力紛争下の女性に対する暴力の不処罰の循環を断ち切ること、それによってこうした犯罪の再発を防ぐことに寄与しようと決意し、

      全記録を、20世紀の歴史の消し去ることのできない記録として世界に公表することにより、「法廷」の努力が、戦争と女性への暴力のない21世紀と新しい千年紀を創ることに寄与することを確信し、

      日本軍性奴隷制を裁くための「2000年女性国際戦犯法廷」を開くこと、および、その主要な使命として、日本の植民地支配と侵略戦争の一環としてアジア太平洋全域にわたって日本軍が犯した性暴力、とくに、「慰安所」で「慰安婦」たちを性奴隷にしたことについて、真実を明らかにし、関与した諸国家や個人の法的責任を明確にすることを切望し、

      「法廷」が、女性に対して行われた犯罪の責任に関して、当時の国際法の欠かすことのできない部分であり極東軍事法廷で適用されるべきであった、法の諸原則、人間の良心、人間性とジェンダー正義に照らして、また女性生存者自身を含む多くの人々の勇気ある闘いの結果、国際社会が国際人権と認識するようになった、女性の人権の原則などに関わるその後の国際法の発展を、女性に対する犯罪に対し国際法を適切に適用し、過去の違法行為に対する国家責任について進展中の原則を体現する、その限りにおいて考慮に入れつつ、判決を下す能力があることを確信し、

      民衆と女性の提唱で開かれるこの「法廷」に、判決を強制する実際の権限はないとしても、国際社会や各国政府が判決を広く受け入れ、実施することを要求する道義的権威を持つことを心に留め、諸国家や国際組織がこうした犯罪に責任のある人々を裁くため、また謝罪、損害賠償、リハビリテーションを含む賠償を行うために必要な措置をとるよう再度要求しつつ、加害国(日本)の諸組織、被害地域の諸組織(南北朝鮮、中国、台湾、フィリピン、インドネシア、マレーシアなど)および国際諮問委員会(著名な専門家や人権活動家からなる)で構成される国際実行委員会は、ここに、日本軍の性奴隷制を裁く「2000年女性国際戦犯法廷」の憲章を定めます。

    • 以上
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