「適正手続き」はどのように保障し、公正な裁判にしたのか
「法廷」は、刑事裁判の形をとったため民衆法廷であっても、被告人が公正な裁判を受ける権利、つまりデュー・プロセス(適正手続き)は保障されなければいけません。
国際実行委員会と検事団は、デュー・プロセスをどこまで適用できるのか議論を重ねました。判事を引き受けた法律専門家たちがまず関心をもったのも、デュー・プロセスでした。
そこで、判事団は被告である日本政府に出廷を求める招請状を出すとともに、それに応じない場合にそなえて、被告側の予想される主張を法廷で表明してもらうために、日本の法律家にアミカス・キュリーを依頼することを決めました。
昭和天皇も被告人になっているのですから、できる限り厳密にデュー・プロセスをとるようにつとめました。それによって、「法廷」の結論が少しでも説得力、影響力を持つようにと願ったからです。- 判決文にあるデュー・プロセスについて判事団の見解
- まず、これが民衆法廷であることから、
「民衆法廷は被告人に対して刑事処分や民事的不利益を科す権力を何ら持たない。被告人や日本国に賠償を強制する権力もない。この法廷は事実と法について認定し、宣言の形で裁定を下し、勧告できるだけである。しかし、判決は道義的な力を備え、世論の裁きの前に被告人の行為を明らかにすることができる」
と国家権力による裁判との違いを指摘しています。
それを前提に、「死者を裁く」ことについて、犯罪の時点から長い時間がたって加害者が死んでも、その犯罪の責任について判定することは建設的なことだとしています。時効については、この「法廷」は「一九四六年当時にもどって」行われる形の裁判なので問題ならないとしています。罪刑法定主義については、戦争当時の法を適用し、植民地被害者への犯罪についても戦争犯罪でなく人道に対する罪で裁くので、いずれも問題はないというのです。また、東京裁判の被告をまた裁いてもそれは訴追されなかった人道に対する罪としての性奴隷制やマパニケの強かんについてなので、一事不再理の原則に反しないわけです。
また、判事団は被告の日本政府の言い分について、政府見解や「慰安婦」訴訟での政府の主張や法廷での専門家証言などを綿密に検証したうえで判断を下しています。このように見てくると、公正な手続きを踏んだ「法廷」が、公正な判決を下したといえます。
[ 無断転載禁止 ]