「法廷」の評価と国内・海外への影響は
この「法廷」は国家という枠組みにとらわれず、立場を超えて力を結集した無数の女性たちの連帯によって実現したことが評価されています。
国際法や人権などの専門家たちからも注目された理由は、これまで女性運動が世界各地で開いた公聴会とは違い、憲章をつくり、証言や証拠を集め、厳密な法手続きをとり、世界的に尊敬される専門家を検事や判事に迎え、歴史に残る内容のある判決を出した民衆法廷だったからです。2001年の国連人権委員会にクマラスワミ「女性に対する暴力特別報告者」が提出した報告者の中で、「女性国際戦犯法廷」を評価しています。- 日本国内の反応
- 日本国内では、メディアがほとんど黙殺する中で、「法廷」への関心は着実に広がっています。これまでタブーとされてきた昭和天皇の戦争責任に真正面から向きあい、有罪判決を下したことは衝撃をもって受け止められました。戦争犯罪における責任者処罰の原則は、戦後補償裁判や補償立法運動に影響を与えるばかりでなく、思想史や戦後思想の総括、天皇制、フェミニズムの世界にも、様々な形でインパクトを与えており、「法廷」に触発された論考が目につくようになりました。
しかし、評価や影響が大きいだけに、日本社会の保守派の反発も強く、「法廷」は天皇を戦犯扱いする反日集会だと、右翼勢力の攻撃や嫌がらせが開廷中から始まりました。その他にも、NHKに「法廷」番組放送中止を要求して乱入したり、「法廷」後の報告集会はしばしば妨害されました。また、横浜で行われた「法廷」ビデオの上映会では、右翼の暴力的行為で集会を中止させられました。ここではケガ人も出たので五人が逮捕され、二人に有罪判決が出ました。このように、戦争責任を否定し「慰安婦」問題を抹殺しようとする勢力が強まっているからこそ「法廷」を開いた意義は大きいといえます。 - 世界への影響
- 現在、経済のグローバリゼーションが進む中で、世界各地で武力紛争やテロが起こって、多くの女性や子どもが犠牲になっています。とくに戦場での性暴力は悪化し、1990年代から、戦時性暴力不処罰をなくそうという国際世論が急速に高まりました。しかし、国家はなかなか対応しないため、国家が裁く義務を果たさないなら民衆が裁く権利と責任があると、グローバル市民社会が開いたこの「法廷」は普遍性を持っています。
実際、民衆法廷の思想は広がり、朝鮮戦争中の米軍の戦争犯罪を裁くコリア民衆法廷が2001年米国で開かれました。旧ユーゴスラビアやアフガニスタンの女性たちも女性法廷の可能性を模索しています。
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